ヨル

不倫と呼ぶには

第7話 静寂

約束の日が来た。外は、静かだった。緊急事態宣言が出て、街から人が消えていた。開いている店は、ほとんどなかった。みんなが、家にこもっていた。黒田の整骨院は、普段、窓から中の様子が見えるようになっていた。でも、その日はすべてのブラインドが閉めら...
不倫と呼ぶには

第6話 特別

黒田のパーソナルトレーニングを受けるようになって、二か月が過ぎた。週に一度。予約が取れれば、二度。最初は、ぎっくり腰の治療で通い始めた整骨院だった。そこには、トレーニングジムのような器具も揃っていた。オーナーの黒田は、施術とトレーナーの二足...
不倫と呼ぶには

第5話 黒

室内用のトレーニングシューズを、持っていなかった。ウェアもなかったから、しまむらに行った。千円台のシューズを手に取った。色は選ばなかった。安いほうを選んだ。Tシャツも、一番下の棚から取った。上下とも、黒になった。どうせ、誰も見ていない。当日...
不倫と呼ぶには

第4話 枠

整骨院に通わなくなって、ひと月近くが過ぎていた。腰は、もう痛くなかった。家にいるあいだ、私はだいたい一人だった。昨年、夫の不倫が発覚してから、夫は子どもたちにやけに優しくなった。宿題をしていなくても、夜更かしをしても、何も言わない。小言を言...
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第3話 化粧

夜勤に出る前、私は化粧ポーチを鞄に入れた。夜勤明けに、整骨院に行く予定があるから。すっぴんでいいことくらい、わかっていた。わかっていて、入れた。その夜は、看護師がひとりと、介護士の私。ふたりで、眠らない建物をあずかった。申し送りを受け、利用...
不倫と呼ぶには

第2話 再診

翌日は、日勤だった。朝、布団から起き上がるのに、横向きになって、手をついて、息を止めた。それだけで額に汗がにじんだ。顔を洗い、髪をひとつに結んで、化粧をした。二階は、まだ静かだった。腰が痛くて、最悪だった。それでも、仕事に行った。動けないわ...
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第1話 予約メール

不倫の始まりが、ぎっくり腰だなんて。誰も思わないだろうし、私も思っていなかった。彼に最初に送ったのは、ラブレターなんかじゃない。整骨院の、予約メールだった。「本日、受診可能です」私はすぐに「伺います」と返信した。——たぶん、それがすべての始...