第5話 黒

不倫と呼ぶには

室内用のトレーニングシューズを、持っていなかった。
ウェアもなかったから、しまむらに行った。

千円台のシューズを手に取った。
色は選ばなかった。安いほうを選んだ。
Tシャツも、一番下の棚から取った。
上下とも、黒になった。どうせ、誰も見ていない。

当日は、少し早く着いてしまった。
駐車場で待つのも気が引けて、少し回り道をした。
五分前に、敷地に入った。

インターフォンを鳴らして、ドアを開けた。
お願いします、と挨拶した。
黒田はこちらを少し見て、「はい、どうぞ」と言った。
床に、トレーニング用の器具が無造作に置かれていた。

まずは問診だった。
運動習慣や食生活を、細かく聞かれた。
体重測定は、恥ずかしかった。
でも、黒田にとっては仕事だ。
私の数字がいくつだろうと、ただの数値として見るのだろう。
そう思うことにした。

体重の理想を聞かれた。
「体重は何キロでもいいです…腰痛の予防と、体脂肪率を下げたいです」と答えた。

「今日は初回なので、緩めにやりますよ」黒田がそう言った。
まずはお腹から。
器具は使わなかったが、自重だけできつかった。
それから、腕と下半身。
運動習慣のない私は、数種目で息が切れ、汗が滲んだ。
きつかった。
でも、嫌ではなかった。

トレーニングのあと、黒田は必ずストレッチをするのだと言った。
施術台に仰向けになり、使った場所を、伸ばしてくれる。
痛いところも多かった。

大腿を押されたとき、痛っ、と声が出た。
すみません、痛いですよね、と言いながら、黒田はさらに押した。

私は天井を見ていた。
どこを見ればいいのか、わからなかった。
人に体を触られるのが、いつぶりだろう。
思い出そうとして、やめた。

15分ほどして、お疲れさまでした、と黒田が言った。
起き上がると、汗が引いて、少し寒かった。

また来ますか、と聞かれた。
はい、と答えた。

黒田の整骨院は、人気だった。
次の空きと私の休みがかぶるのは、二週間後だった。
それでもいいや、と思って、予約した。

外に出ると、昼だった。
まぶしくて、目を細めた。

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